本の紹介『住友銀行秘史』

壮絶な闘いです。

國重 惇史 『住友銀行秘史』[Kindle版]、講談社、2016年

國重さんは楽天時代に毎週、全体朝礼でお見かけしていた方で、遠いながらもまったく知らない方ではありません。その人が書いた本ですが、中身はかなりドロドロです。要は、住友銀行のスキャンダルであるイトマン事件を世間に出したのは、当時、中の人だった國重さんという次第です。

最近はこの手の事件はなかなか起きないと思いますが、イトマンという商社が株の仕手戦などを手掛ける人物に食い物にされ、住友銀行が多額の資金を吸い取られるという事件です。子どもながらにニュースで流れていたのを記憶しておりますので、それなりの大事件であったと思います。

國重さんは当時、住友銀行の部長で、一連の情報に触れられる地位にいて、組織をよくしようという想いから、自ら情報収集を行っていました。結果的に彼がリークした情報が決めてとなり、この事件が発覚したわけですが、その過程はなかなか手に汗握るものがあります。

しかし、この本にはもうひとつ注目すべき点があると個人的には思っており、それは社内の人事のことです。こんな事件の中でも派閥争い、後継争いが絡んでいて、大企業の上層部の人たちはこんなときにまで、自分の出世のチャンスをうかがっているんだなと冷めた目で見ていたのと同時に、ここまでしないと出世できないなら、自分のようにバカ正直にサラリーマン生活を送っていたら出世などできないんだろうなと感じました。國重さんは後者の方に近いのかと思いますが、時折、言い訳じみた記述がないわけでもなく、そういう文化に染まらざるを得ないんだろうなと思った次第です。

評価ですが、内部告発のドキュメンタリーとしては、その当事者が書いているのでそれなりの真実味のある迫力はあります。内容が内容だけに、たまにエグいところもありますが、けっこう楽しめました。

ところで、先日の日経新聞にこの本の広告が載っていて、「新入社員必読!」みたいなことが書いてありましたが、新入社員がこんな内容読んだら、希望なくしてしまうのではないかと心配してしまいます。まぁ、どっちにしても、いろんな荒波に揉まれることになるでしょうから、あらかじめ知っておくのもひとつの方法かもしれません。


評価:★★★★☆

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