本の紹介『情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記』

気持ちだけでは到底、勝利など望むべくもありません。

堀栄三 『情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記』[Kindle版] 文藝春秋、1996年

著者は旧日本陸軍の情報参謀です。いかに日本軍は情報戦で先の大戦に敗れたか、というよくあるネタです。本人は情報参謀としていろんな経験をしており、内容としてはドキドキ感がありました。

それにしても、情報を握ることがいかに大事かというのを、改めてではありますが、痛感しました。これは現代のビジネスにおいても同じ話で、会社としてどれだけアンテナを張り巡らすことができるか、ひとりのビジネスマンとしてどれだけ情報を持つことができるかというのは重要であることは言うまでもないでしょう。

しかしこの本が他と違う(と思われる)のは、日本も情報収集、分析のレベルではそんなに悪くはなかったという内容です。例えば、原爆投下の動きについては事前に掴んでいたという記述です。もっともそれが原爆投下というものであったかは分からなかったようですが、米軍の無線やら爆撃機の奇妙な行動、すなわち、出撃したものの何もせずに帰るという行動が繰り返された(予行演習)とか、コードネームに今まで使われなかった記号が使われていた(原爆搭載爆撃機専用コード)などといったことは事前に掴んでいたようです。結局、アメリカが原爆実験に成功したという情報を得たのは、広島で惨事が起こった数時間後とのことで、本書が書かれた時点までもそれを後悔していたようです。

まぁ、よくある話として、墜落した米軍のパイロットがあまりに薄着なのを見て、アメリカも物資がないんだと嘲笑したというものがありますが、まさにそれですね。実際には高高度の低酸素、低気温でも耐えられる飛行機をすでに持っていたというのが事実で、せっかくの情報をムダにしてしまう典型ですね。

いまや何もしなくてもある程度の情報はネットに落ちている時代で、敵の動きが分かっているにも関わらず何もしないなんていう経営陣は、情報を有効活用できていないと言ってよいのではないかと思います。え?一般論ですよ、一般論!

さて評価ですが、自伝的書物の場合は本人のバイアスがかかっている可能性が大きいので、いつもどおり、少し低めにしておきます。ただ、内容はけっこう面白いということは記しておきます。


評価:★★★☆☆+0.5

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